浅草より隅田川の西岸を北へ行くと橋場という所があり、橋場の渡しからさらに北へ行くと川岸に、真崎があった。ここに朝日神明宮(石浜神明)が鎮座し、その境内に摂社の真先稲荷があった。真崎という地名はこの稲荷から取ったとされている。真先はまつさきとも発音でき、この稲荷に詣でれば、真っ先に家運の隆盛を祈ることが出来て縁起がよいというわけで、参詣者が多かった。
真先稲荷の境内には、隅田川に面して酒屋や料理屋が何軒も並んでいて、窓外には隅田川や対岸の向島の素晴らしい景色を眺めることができた。真崎で名物の料理は真崎田楽で、その中で最も有名な店が甲子屋(きのえねや)であった。
広重はこの料理茶屋の丸い窓から眺めた景色を描いている。窓近くには梅の花が咲き、隅田川には、遊覧中の屋根舟が川を上っていく。材木を運ぶ筏は川を下っている。対岸の緑の森の前には、水神社の鳥居が見え、その左手には木母寺へ入る内川が描かれている。そこから左の方の、綾瀬川を越えて隅田川の千住大橋に至るまでの村を関の里といった。昔千住に関が設けられていたために付けられた名前という。遠景には筑波山が聳えて見えている。
この絵のように、円い窓を絵の枠で切断し、半円の中に景色を描くという手法は、フランス後期印象派の画家ゴーギャンが〈美しきアンジェル〉を描く時のヒントになったといわれている。
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