身延川は、北斎も終生篤く信仰していた日蓮宗の大本山、久遠寺近辺を流れる富士川の別称で、参詣の人々には馴染み深い川であった。往時は、この名刹に通じる街道であることから、往来も盛んだったようで、画面でも旅人のほかに馬をひく馬子や、急ぎの駕籠などもみられ、その様子を窺うことができる。
北斎はここで、実際より地形を険しいものとして描き、切り立った岩の間から山頂辺をみせる富士を、やはり険しく覗かせている。また身延川も、点苔で急流のような表現が用いられて、全体に山間の光景であるかのようにみえる。
いずれにせよ、この画面はイメージの所産でありながら、対峠するものに意外な臨場感をもって迫ってくるのはさすがといえよう。
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