七里ヶ浜は、江戸庶民にとって江の島ヘ向かう小旅行の場所であったので、浮世絵には好画題として度々採り上げられ、旅人たちで賑わう往来の様子が描かれることが多い。そうした傾向からみると、この図は大いに趣を異にするものといっていいだろう。
画面には往来の様子どころか、全く人物は描かれておらず、行楽の地にしては僅かに人家がみえるのみの寂しい景観である。また全体の藍色が、一層そうした雰囲気を表出させていて、名所を描いたというより何か山水図に近いといったイメージが強い。
北斎は湾曲する七里ヶ浜から江の島を捉え、その後方に中腹まで雪に覆われた富士を描いているが、画中で動きをみせるのは沸きあがる雲と、穏やかにくり返し打ち寄せる波だけという、不思議な異色作といえる。
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