堀江ねこざね
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名所江戸百景 No.96堀江ねこざね

 徳川家康は江戸へ入府すると、直ちに江戸市民が必要とする塩を、利根川(江戸川)の河口近くの東岸にあった行徳から舟で江戸まで運ぶべく、幾つかの水路を開削した。塩の産地行徳領の中に堀江村と猫実(ねこざね)村の二村があった。
 この両村は、行徳よりやや下流の、利根川の左岸から分岐した支流の、境川の両岸にあった村である。堀江とは土地を掘って水を通した川を意味したので、境川は運河として掘られたものと考えられる。両村ともに江戸湾に面した低地帯にあったため、たびたび津波の被害に遭っていた。
 とくに猫実村は土地が低く、ちょっとした波にも土地が洗われていた。中でも永仁の大津波(1295)が来た時には、甚大な被害を被ったので、村民たちは、村内の豊受神社付近に堅固な堤防を築き、ここに松の木を植えて津波に備えた。それ以来、津波は松の木の根を越すことはなかった。「根を越さぬ」という言葉が訛(なま)って「ねこざね」となり、これが村の名前になったという。
 この絵で境川の左側が堀江村であり、右側が猫実村である。両村の村民たちはともに漁業に従事しており、中には獲れた魚介類を持って、舟で江戸まで行商に行く者もあったという。境川が果てる先に見える二本の帆柱は、行徳辺りに碇泊している舟のものと思われる。遠方の富士山は、真白い雪に覆われているので、この絵の季節は冬であることを示している。
 手前の海浜では、2人の猟師が鳥を捕獲しようとしてるようである。絵には見えていないが、両人の持つ綱の先は砂に埋められた網の枠に結び付けられており、砂上に撒いた米、稗、魚などの餌を求めて、鳥が集ってきた頃合に、猟師がこの綱を引っ張ると網が鳥の上から覆いかぶさって、鳥が捕獲できるという仕掛のものであったと考えられる。この狩猟方法は、無双返(むそうがえし)とか無双網と呼ばれていた。

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