浅草の東を流れる隅田川の対岸一帯を向島と言い、ここには墨堤の桜、寺島村の百花園、白髭明神など景色のよい所が多い上に、美味しい料理を出す料理屋も多く、大勢の人々が訪れた。
寺島村の南に請地村があり、ここに秋葉大権現社が鎮座していて、この社がこの絵の表題の請地秋葉である。この社は、満願寺の住職であった葉栄が、百姓の屋敷内にあった千代世(ちよせ)稲荷(稲荷神)を譲り受け、同時に遠州の秋葉権現(鎮火の神)を勧請し、本多侯の寄進を得て、二神を一緒に祀った社であった。その因縁から、この社は鎮火の神として、大名や江戸城の大奥女中の信仰を得ていた。
神社の境内の北には、築山や泉水が巧みに造られ、種々の景樹が植えられていた。そして池の周辺には四季折々に茶店が設けられた。春には梅の花が咲き、鶯が鳴き、池辺には杜若(かきつばた)が水面に映じ、時鳥が鳴き、さつきが咲き、秋には萩の花と紅葉があって、四季を通じて遊覧の地であった。
門前には酒屋や料理屋が多く並び、それぞれ生簀(いけす)を構えて鯉を飼い、鯉の洗いなどの鯉料理を出していた。また麦とろろという、麦飯にとろろ汁をかける名物を出す料理屋もあった。
浅草川(隅田川)で獲れる鯉は、紫鯉と称する、江戸の名産であって、向島には鯉料理屋が多くあったのである。秋葉神社の隣にあった大七は鯉のあらい、その隣の武蔵屋は鯉料理で有名であった。
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