王子の渓谷を流れる滝の川の右岸に正受院という寺があり、裏の坂道を川の方へ下りて行くと、泉流の滝が滔々と流れ落ちていた。その傍らに洞窟があり、中に不動明王が祀ってあったことからこれを不動之滝と言った。
江戸時代のある本によると、「不動の滝のある周囲は岩窟のようになっていて、岩は青い苔に滑らかに覆われ、その周りには鬱蒼とした樹木が茂っていて太陽の光を遮り、滝壺の近くへ行くと、真夏の暑い日でも寒さを感ずる程であった。滝は高い所から落ちていたため水先が玉のように弾け、辺りは霧雨がふっているようであった」と説明されている。
この不動の滝に打たれると狂気、のぼせ症、頭痛、肩こりなどの病気が治るというので、夏の土用の頃になると多くの人が江戸から訪れた。また江戸時代には、海水浴が普及していなかったので、滝浴みによって涼を求める人も増えてきた。王子には滝が七つあったがその中で最も有名であったのが不動の滝であった。滝では男は褌一つになって、また婦女子は浴衣を着、髪を手拭で包んで滝浴みをした。滝浴みの最盛期には、正受院が本堂や客殿を有料の休憩所にして提供したという。
ここを訪れた者の中で、壮年で性が勇猛な者は、 1日に5〜7回、身体の弱い者や老人は、 1日に4回を限度として滝浴みを行なったという。滝浴みの合間に休息をとったのが、正受院であった。
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