シリーズ中では、最も簡略化されたもののー図であるが、大胆な構図で臨場感ある佳作といっていい。
画面はほぼ横に三つに分けられていながら、各々がー図に組み合わされて、違和感のない情趣を醸し出している。まず前景は、人家すらない川辺を農夫らしい男が馬をひく様子のみが描かれ、物寂しい雰囲気を看取させる。中景では、一艘の舟が旅人を乗せて対岸ヘ向かっているが、川面はやや波うって速い流れをみせながらも、藍の拭きぼかしと藍の線のみで表して、まるで、透き通ったかのような清らかな流れをみせている。これに対し、遠景は、画面を大きく横切る霞の彼方に置いて、雪をかぶった富士山容が堂々とそびえているのである。実に巧みな画面構成というべきだろう。
なお、描かれた場所が多摩川のどの辺りであるのかは、画面からは判断し難い。
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