あえて北斎は、大きな賑わいをみせた宿場を描かず、荒川近くの掘割にある水門辺を描写している。ここでは、二人の男が釣りに興じており、その傍らを行く農夫は、馬をひきながら富士を眺めているという、のどかな光景である。
この図でも「隅田川関屋の里」などと同じく、画中人物の面貌を笠や腕で隠している。しかし、そのいずれの顔の位置や目線の方向は、観る者に自然と想像させる工夫がなされており、画面細部にまでも注視させる効果をあげているのである。
それにしても馬の顔までがたて髪で見えなくなっているのは、北斎のウイットなのであろうか。
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